指示を出す前に、まず子どもの注意をこちらに向ける
無視されたように見える指示の多くは、じつは最初から届いていません。子どもの頭が別の場所にあるあいだに、ことばが宙に向かって話されただけなのです。指示を出す前に、まず子どもの注意をこちらに向ける。それが、言ったことが伝わるかどうかをいちばん大きく変えるひと手間です。
最初の数秒が大切な理由
小さな子の脳は一度にひとつのことにしか集中できず、切りかえにも時間がかかります。遊びの真っ最中に話しかけると、大人の声はおもちゃやテレビ、きょうだいの声と同じ背景の音になってしまいます。子どもがこちらに気づいたころには、聞こえたのはせいぜい文の終わりだけ。先に注意を集める短い間をとれば、指示がまるごと届く場所ができます。
これは、すぐに言うことを聞かせるためではありません。ことばが聞こえるチャンスをきちんとつくるためで、そのほうが親子どちらにとってもやさしいのです。
まず、距離をちぢめる
別の部屋から大声でかけた指示は、小さな子にはまず届きません。そばまで歩いていき、しゃがんで目の高さを合わせ、そっと肩にふれられるくらいの近さに。体が近づくと「何か頼まれるな」という合図になり、家の向こうから聞こえる音との競争もなくなります。
低い姿勢になると、その場の空気も変わります。上から見おろすのではなく、となりに並ぶことになり、何も言わないうちから反発がやわらぐことが多いのです。
そっとふれて、待つ
近くに来たら、子どもの注意がこちらに移るのを手伝います。腕に軽くふれる、あたたかく名前を呼ぶ、遊びの自然な切れ目を待つ。どれも効果があります。ねらいは、不意打ちのように感じる中断ではなく、さりげない小さな合図です。
そして、つながるのを待ちます。顔を上げる、こちらを向く、手の動きが止まる。そんな様子があれば、こちらに来てくれたしるしです。集中している最中にことばをかぶせるのではなく、このひと呼吸を待つのがコツです。時間がかかるように感じますが、何度もくり返してだんだん声が大きくなるやりとりのほうが、ずっと時間を食います。
一度だけ、シンプルに
注意が向いたら、短い指示をひとつ、わかりやすいことばで。「じゃあ、上着を着ようね」。長い説明はメッセージを薄め、気の散りやすい頭が見失うものを増やします。理由が必要なら、ひと言でじゅうぶんです。「上着を着よう、外は寒いよ」。
声のトーンは落ち着いて、一定に。大きな声は驚かせて注意を引くので、そのときは効いても、「どなられるまで動かなくていい」と教えることになります。静かで、近くて、「やってくれると思ってるよ」という声のほうが長続きします。
遊びに夢中になっているとき
本当に夢中になっているときに無理やり注意を引きはがすと、かんしゃくの引き金になることがあります。こんな工夫でやわらげられます。
- 先に予告する。「この歌が終わったら、お着がえしようね」。予告は、やめるのはむずかしいという気持ちを大切にしてくれます。
- 少しだけいっしょに遊ぶ。していることについてひと言話してから、お願いにつなげます。先につながっておくと、切りかえがらくになります。
- 名前は一度呼んだら、待つ。何度も、早口で、大きな声でくり返さないように。
- 指示のなかに、小さな選択肢を入れる。「洗面所まで、ぴょんぴょんで行く?歩いて行く?」と聞くと、子どもにも決める部分が残ります。
これはごほうびでも先のばしでもありません。忙しい小さな頭には、ひとつのことから次へわたる橋が必要だと認めているだけです。
遊び心のある注意の引きかた
注意を引くのに、まじめである必要はありません。小さな子は命令より、あたたかさや目新しさにすばやく反応することがよくあります。ささやき声の指示、おどけた声、カウントダウン、「ドアまで競争だよ」のひと言。どれも、もめずに注意を移してくれます。ふつうの伝えかたは本当に必要な場面にとっておき、毎日の切りかえには遊び心のある方法を使いましょう。
じゃまになっているものに目を向ける
どれだけ近づいても届かないようなら、全体を見わたしてみましょう。眠い、おなかがすいている、長い一日のあとで甘えたい、まわりがうるさい。どれも注意の量を小さくします。画面はとくに引力が強いもの。動画と張りあうより、話す前に一時停止するのが、足りなかったひと手間であることがよくあります。
指示だけでなく音そのものをよく聞きのがしている、テレビにとても近づいて見る、はっきりしたことばがなかなか出てこない、といった様子がないかも気にかけておきましょう。お願いだけでなく、名前を呼んでも反応しにくい状態が続くなら、かかりつけの小児科医や地域の保健師さんに伝えてください。必要なら、かんたんな聞こえの検査につないでくれます。中耳炎をくり返していたり、滲出性中耳炎があったりすると、音がこもって聞こえ、聞いていないように見えることがあります。
習慣にしていく
毎回これを思いだせなくても大丈夫ですし、その必要もありません。安全にかかわること、出かけるとき、食事の時間など、本当に大切なお願いのときに「まず注意を向けてもらう」を基本にしてみましょう。だんだん子どもは、親が近くに来て名前を呼んだら、聞いておくべきことが来ると覚えていきます。その予想できる流れが、少しずつ協力をなめらかにします。同じことを何度も言うのに使っていた力を、そのあいだのあたたかくふつうの時間に使えるようになります。
ポイント: 近くに行って、そっとふれて、反応を待つ。それから短い指示をひとつ。そうすれば、ことばがちゃんとお子さまに届きます。