同じ歌を「もう一回!」とせがまれるとき
まだお昼前なのに、今日もう40回聞いた。子どもが同じ歌をエンドレスでくり返し、「もう一回、もう一回」とせがむと、どんなに根気のある親でもためされます。でも元気を出してください。これは子どもが困らせているのでも、行きづまっているのでもありません。まったくふつうで、発達にとって健やかな習慣です。理由がわかると、ひそかなため息が、感謝に近いものに変わるかもしれません。
くり返しは、小さな脳の学び方
小さな子は、何度も何度もすることで学びます。はじめて歌を聞くとき、子どもはつかめるところをつかんでいるだけ。くり返すたびに少しずつ予想でき、新しいことばに気づき、動きを身につけ、全体を記憶にしっかりきざみます。大人にはたいくつなくり返しに見えるものは、内側から見れば、子どもが理解を積みあげている姿です。同じ歌をくり返すとき、子どもは練習していて、練習こそが力を自分のものにする道なのです。
予想できることの安心
気持ちの面もあります。世界は大きく、小さな子にはほとんど動かせず、新しく予想できないことでいっぱいです。そらで覚えた歌は、小さな、たよれる島。次に何が来るかちゃんとわかっていて、その予想できる感じが本当にほっとさせます。同じ歌をまた選ぶのは、安全で、身についたものにもどる方法で、だから疲れているとき、落ちつかないとき、ほかの変化に向きあっているときに、せがむ回数が増えることがよくあるのです。
身についたうれしさ
安心とならんで、誇らしさもあります。間を予想できる、くり返しのところで歌える、動きを全部できる、というところまで来ると、確かな達成感があり、それをまた味わいたくなります。大好きな歌をくり返すことで、本当に自分のものにしたことを、大人にも自分自身にも見せられるのです。大人がほとんど何でも上手にできる暮らしのなかで、本当に身につけた歌をもっているのは、めずらしくてとびきりの気持ちで、くり返し味わう価値があります。
エンドレスのくり返しが育てているもの
単調さのうしろで、たくさんのいいことが起きています。
- ことば。覚えやすい形で同じことばを聞くことで、語彙が深まります。
- 記憶。歌をまるごと覚えておくことで、育っていく記憶がのびます。
- 自信。なじみの歌をばっちり歌えると、本当の勝利に感じます。
- 安心。予想できるお気に入りが、気持ちを安定させます。
大人がすることは、歌を流しつづけさせてあげることだけ。価値はくり返しそのものに組みこまれていて、それこそが、つい切りあげたくなるものなのです。
大人がまいらないために
よさがわかっても、50回目がらくになるわけではありません。自分にやさしい道具をいくつか持っておきましょう。子どもが知っている歌はそのままで、小さなところを変える。ささやく、ゆっくりにする、おもしろい声で歌う、いちばんいいところの前でたっぷり間をとる。こうした工夫で、子どもがほしい安心できる同じさをこわさずに、大人の頭にちょっぴり新しさを。交代で、一節を子どもに歌ってもらえば、毎回ひとりで歌いきらなくてすみます。
レパートリーをやさしく広げる
新しい歌を入れるために、お気に入りを禁止する必要はなく、「もうその歌はおしまい」ときっぱり言うのはたいてい逆効果です。かわりに、大好きな歌のすぐあとに新しい歌を出したり、リズムやテーマの似た歌を見つけてとびうつる幅を小さくしたり。ペースは子どもにまかせましょう。たいていの子は時間とともにしぜんに好みを広げ、古いお気に入りを残しつつ新しいお気に入りを足していき、今の夢中は大人が何もしなくても、ひとりでに次へ移っていきます。
もう少し見ておきたいとき
ひとつの歌が大好きなのは、ほとんどいつも小さな子のふつうのふるまいで、心配いりません。この習慣だけでなく、全体のようすに目を向けておきましょう。くり返しが楽しそうではなく、追いたてられているように見える、暮らしのいろいろな場面で決まりごとの小さな変化にとても強く動揺する、音や大人の声に反応しない、ことばやできていたことがなくなったように見える、という場合は、地域の保健師さんやかかりつけの小児科医に気軽に話してみましょう。どれも話してみるきっかけで、あわてる理由ではありません。たいていは、ただ大好きな歌を見つけたというだけのことです。
くり返しの波に乗る
同じ歌のエンドレスは、子育てのはじめのころの、ちょっとためされる喜びのひとつです。でもそれは、学び、安心し、自分にできることを誇りに思っている子のしるしです。子どもが100回目に同じ歌をせがむとき、小さな子がするべきことをまさにしています。小さな工夫で自分をたもち、この時期はやがて移っていくと信じましょう。1回1回が、静かに子どものためになっています。
ポイント: 同じ歌をエンドレスでくり返すのはふつうで、ことば、記憶、安心を育てる大切なこと。禁止するより、小さな工夫で大人の気持ちをたもちましょう。