耳をすますお散歩。近所でリズムを見つけよう
立ちどまって耳をすませば、世界はリズムでいっぱいです。横断歩道の信号の「ピヨピヨ」「カッコー」、ごみ箱のふたをたたく雨の音、鳥のふたつの音の歌。耳をすますお散歩は、ふつうのお散歩をこうした音さがしに変える遊びで、子どもの耳をみがく、いちばんシンプルな方法のひとつです。お金も道具もいらず、音楽とことばの両方を支える、注意を向ける力と気づく力をやさしく育てます。
耳をすますお散歩とは
考え方はとてもシンプルです。お散歩に出かけて、ずっとおしゃべりするのではなく、ときどきふたりで立ちどまって、じっくり耳をすますのです。何が聞こえる?車、犬、足音、木をゆらす風、遠くのサイレン。音に気づいて、いくつか名前を言って、もしかしたらそのリズムをまねしてみる。それが遊びのすべてです。力のひみつは、子どもがいつもしている「見ること」から、わざとすることはめったにない「聞くこと」へ、注意を切りかえることにあります。
聞くことに練習が必要な理由
聞こえることはしぜんに起きますが、耳をすますこと、つまりある音を選んで集中することは、使うほど育つ力です。にぎやかな教室で先生の声を聞きわけたり、おはなしについていったりするのに必要な力と同じです。音のリズムに耳をかたむけることは、そのまま音楽にもつながります。電車が「ガタンゴトン、ガタンゴトン」と鳴っていると気づく子は、拍について学んでいます。耳をすますお散歩は、外での楽しい時間にしか感じられないのに、この集中を静かにきたえてくれます。
始めるときのかんたんな声かけ
台本はいりません。聞くモードに切りかえる、ちょっとした声かけがあればじゅうぶんです。
- 「止まって、目をつぶってみよう。何が聞こえる?」
- 「遠くの音と、近くの音、聞こえるかな?」
- 「あの鳥、小さな歌を歌ってるね。まねできる?」
- 「雨がポツポツいってるね。おなかでポツポツしてみよう」
軽く、子どもの心をつかんだものについていきましょう。ぽたぽた落ちる雨どいひとつに5分夢中になっても、それは計画からの寄り道ではなく、すてきな深い聞き方です。
ふつうの音のなかにリズムを見つける
音に気づけるようになったら、リズムのほうへそっと誘ってみましょう。毎日の音の多くには、手をたたいたり足で合わせたりできる拍があります。電車のガタンゴトン、トラックの「バックします」のピーピー、だれかがほうきで掃くシャッシャッ。一定の音に合わせて歩いたり、そのパターンをひざでたたいたり。ふつうのお散歩が音楽遊びに変わる瞬間で、たいくつな道がじつは音楽でいっぱいだったと知って、喜ぶ子はたくさんいます。
いつものお散歩に織りこむ
このよさは、よけいな時間がいらないことです。園への道、お買いものの行き帰り、公園までのぶらぶら歩き。どれでもできます。いつもの道のりのほんの数分を耳をすますお散歩にするだけで、大人が何も用意しなくても子どもはそのよさを受けとれます。気持ちを落ちつかせる効果もあります。朝の送りでぐずっている子も、音さがしに誘われると、いそがしい頭にやさしく夢中になれる的ができて、落ちつくことがよくあります。
季節や場所で変化を
場所や天気によって聞こえる音の景色はちがい、遊びが新鮮に保たれます。雨の日は打楽器のコンサート。風の日は木がゴーッと鳴り、門がガタガタ。公園では鳥の声と遊ぶ子どもの声。商店街ではエンジン、人の声、お店から流れる音楽。お散歩ごとに「今日は何が聞こえたかな」と比べると、記憶が育ち、聞きわけてまねできる音の図書館が子どもの中にどんどん増えていきます。
聞こえについて、ひと言
耳をすますお散歩は聞こえることが前提なので、そっと安心させてくれることもあります。たいていの子は、音を見つけて名前を言うのを喜びます。いつも物音や大人の声、後ろからの音に反応しない、音がする方向に顔を向けない、前より音への反応がにぶくなったように見える、という場合は、乳幼児健診などのいつもの機会に伝えましょう。聞こえはどの年齢でもかんたんに調べられ、何かおかしいと感じたら、早めに伝えるのはいつでも賢明です。
耳をすますことの、静かな価値
大人は、子どもに見るものを示すことにはたくさん力を使うのに、聞くよう誘うことはずっと少ないものです。耳をすますお散歩は、そのかたよりを、いちばんすてきで手間のかからない方法で整えてくれます。子どもは注意を向ける力をみがき、ふつうの暮らしにかくれたリズムを見つけ、大人と落ちついたつながりの時間を分かちあいます。次に玄関を出るとき、少しだけだまって、耳を開いて歩いてみましょう。近所がずっと歌っていたものが聞こえてきます。
ポイント: 耳をすますお散歩は、しっかりした注意を向ける力をきたえ、毎日のリズムを見せてくれます。いつものお散歩で、止まって、聞いて、名前を言って、まねしてみましょう。