家族のバンドのリーダーを、子どもにまかせる
家族の音楽は、たいてい大人のやり方で進みます。歌を選ぶのも、ペースを決めるのも、いつ終わるか決めるのも大人。それを逆にして、子どもに仕切ってもらうと、体験がまるごと変わります。子どもが主役の音楽遊びでは、小さな子が運転席にすわり、そこから生まれる自信、ことば、とびきりの喜びは、ときどき楽しいめちゃくちゃになるのも気にならないほどです。
「リードする」ことが子どもにくれるもの
小さな子は、一日のほとんどを指示されて過ごします。着がえて、こっちに来て、ちょっと待って、それはだめ。バンドをまかせると、めずらしいものが手に入ります。自分の考えが方向を決め、大人がついてくる場所です。「自分の選んだことが大事にされる」という感覚は、ほめ言葉ではなかなか届かない形で自信を育てます。伝えること、決めること、その結果をすぐに見ることにも誘われ、遊びの服を着た、力のある学びになります。
まずは子どもの音についていく
いちばんやさしい入り方は、子どもがもうしていることをまねすることです。おなべをたたいたら、大人も同じようにたたく。速くしたら、大人も速く。ことばのないこのついていき方は、どんなほめ言葉よりはっきり、あなたの音楽はいっしょにやる価値があると伝えます。そこから、「あなたがリーダーね。みんなあなたのまねをするよ」とはっきり言ってみましょう。大人が本当に自分の合図を見ていると気づいた瞬間、ぱっと顔が輝く子はたくさんいます。
リーダーに本当の仕事を
ちゃんとした役割があると、リードするのはもっと楽しくなります。
- 指揮者。合図でバンドを始める、止める、大きく、小さくする。
- 歌を選ぶ係。次にみんなで歌う歌を決める。
- 速さ係。速いかゆっくりかを決め、みんなはそれに従う。
- 楽器係。マラカスやスプーンを配り、だれが演奏するか決める。
こうした役割があると、ぼんやりした「あなたが仕切って」が、子どもに本当にできることに変わります。ひとつの時間のなかで役割を交代すれば、きょうだいのひとりが独占することもなく、おとなしい子にもはっきり前に出る番がきます。これが子どもが主役の音楽遊びの中心です。楽しい数分間、本当の権限をまかせるのです。
直したい気持ちをこらえる
親にとっていちばんむずかしいのは、音楽を本当にその子のものにしておくことです。音程は合いません。テンポはぐらつき、「歌」はひとつのことばのくり返しかもしれず、指揮はわけがわかりません。整えようとしないで。直すたびに、この遊びの価値である「自分のもの」という感覚がけずられていきます。かわりに、その子のへんてこですてきな選択に全力でのっかりましょう。でたらめな拍を交響曲のようについていけば、大人が本気だと子どももどれほど真剣に、誇らしく役をつとめるかがわかります。
音は、扱える範囲に
主導権をまかせても、大人の耳やご近所をあきらめる必要はありません。始める前に、前向きなことばでやさしいきまりをいくつか決めましょう。「歌が終わるまで演奏して、そのあとは静かに聞こうね」「家の中の楽器はやさしくね」。いちばん小さな音のバンドをリードするのが目標の「しずかなリーダー」の回は、リードするのは大きな音を出すことだけではないと示すすてきな方法です。数分で区切り、おだやかな歌で終えれば、次に移る前に元気が落ちつきます。
ことばと考える力への、ひそかな後押し
子どもがリードするとき、見せる、合図する、選ぶ、ときには実況する、とずっと伝えつづけています。ことばと、ひとりが動いてもうひとりがこたえるちゃんとした会話のやりとりの、ゆたかな練習です。決めたことにみんながついてくるのを見ると、「こうすると、こうなる」の考え方も育ちます。カードの一枚もなく、遊びを通してしぜんに届くのです。大人が指揮棒をわたして、子どもの考えに場をまかせたからこそ。
きょうだいがいる家での交代
子どもがふたり以上いると、リーダーはけんかのもとになりがちなので、形を決めておきましょう。「この歌はあなたがリーダー、次は妹の番ね」というかんたんな決まりで公平になり、待つことも学べます。赤ちゃんも、ある意味でリードできます。赤ちゃんの手拍子やぴょんぴょんに家族がついていき、上の子が通訳を手伝うのです。大人がときどきボスではなくふつうのバンドの一員になるのも、だれでもリードできて、だれでもついていける、というすてきなメッセージになります。
そっと確かめたいとき
バンドのリーダーは楽しい遊びで、テストではありません。どのくらい進んで仕切るかは子どもによって大きくちがいます。すぐに役をつかむ子もいれば、何度もやさしく誘われる必要がある子もいて、どちらでもかまいません。もっと広い心配、たとえば大人に伝えようとしたり、同じものに注意を向けあったりすることがめったにない、名前や音に反応しない、以前できていたことができなくなったように見える、という場合は、乳幼児健診などのいつもの機会に伝えましょう。ただひかえめな子なら、たいていその子のタイミングで前に出てきます。
長く残る贈り物
数分間、音楽のボスになることで、子どもはリビングの外までずっと持っていけることを受けとります。自分の考えは大切で、大好きな人たちは自分についてきてくれる。子どもが主役の音楽遊びにかかるのは、主導権をわたして、ぐらつく拍についていく気持ちだけ。そのかわりに子どもは自信、伝える力、決める力を練習し、家族はいっしょに、ちょっとばかばかしい喜びを味わえます。
ポイント: 子どもが主役の音楽遊びは、本当の主導権をわたすことで自信と伝える力を育てます。まるごとついていき、やさしいきまりをいくつか決めて、役は交代で。