「これなあに?」と聞かずに、子どもの絵を楽しむ声かけ
くるくるの線と色でいっぱいの紙を、子どもが得意げに見せてくれます。思わず出るのは「わあ、すてき。これなあに?」。やさしい問いのつもりでも、子どもを少し困らせてしまうことがあります。とくに何かを描いたわけではない2歳の子にとっては、うれしい瞬間が小さなテストに変わってしまうかもしれません。「なあに?」と聞かないようにするのは、小さな子がのびのび描きつづけるための、いちばんかんたんな切りかえのひとつです。
この質問が裏目に出る理由
小さな子のお絵かきは、何かを描くことより、描くこと自体が目的のことがよくあります。クレヨンをぐるぐる動かす子は、動きや色、跡が残るおもしろさを探っているのであって、犬を描いているとはかぎりません。「なあに?」と聞くと、絵は見てわかる何かを表すものだと伝わり、答えられない子は失敗したと感じるかもしれません。それが続くと、描く回数が減ったり、大人がほめてくれるとわかっている物しか描かなくなったりする子もいます。
見えたままを、ことばにする
いちばんやさしい代わりは、見えたことを、あたたかく素直に実況することです。「ここに赤をたくさん使ったね」「この線、紙のはしまでのびてるね」。色、形、線、紙のどこをうめているかを口にすると、ラベルを求めずに、ちゃんと見ていることが伝わります。ことばのやりとりにもなります。まるい、とげとげ、こい、うずまき、といったことばを自分の作品と結びつけて聞くことで、描く力だけでなく話す力も育ちます。
がんばりと、描いた過程に気づく
できばえの評価より、どう描いたかについてのことばのほうが届きます。「ぎゅっと押して、太い線にしたんだね」「長いことかけて描いたね」。作業そのものを大切にすることばです。こうした具体的で過程に目を向けた励ましは、自分でくり返せて、自分で手応えをもてることなので、やる気が続きます。決まったものでもろく感じやすい才能へのほめ言葉とはちがいます。試すこと、選ぶこと、続けることがいいところだと、しぜんに伝わります。
話すのは子どもにまかせる
何を描いたか気になるなら、テストではなくお誘いに。「この絵のこと、お話ししてくれる?」と聞けば、扉は開けたまま、どれだけ話すかは子どもにゆだねられます。雲を食べるおばけの長いおはなしをしてくれる日もあれば、にこっと肩をすくめて次へいく日もあります。どちらでもいいのです。意味は、出てくるなら子どもの中から。それが「なあに?」と聞かないことのねらいです。
だまって、そばにいる
すべての沈黙を実況でうめる必要はありません。ときには、となりで自分の絵に夢中になって、ほとんど何も言わないのがいちばんの支えです。大人のおだやかで興味をもった存在が、この遊びにはそれだけで価値があると伝えます。じっと見られて質問されるより、大人が近くで楽しそうに手を動かしているときのほうが、子どもはよくしゃべるものです。少しの静けさは集中を助け、それ自体が大切な力になります。
話がはずんだら、ひらいた質問をひとつ
会話がはずんできたら、ひらいた質問をゆっくりと。「それから、どうなったの?」「このふたり、何してるのかな」。正解を求めずに想像を誘います。質問をたたみかけると取り調べのようになるので注意。あたたかい好奇心のひと言、そして間。それで子どもが話をリードする余地が生まれます。話したくなさそうなら、そのままにして、いっしょに絵を楽しめばじゅうぶんです。
「ねこ描いて」と言われたら
子どもに「描いて」と頼まれたり、「じょうず?」と聞かれたりすることもあります。正直に、励ますように、でも主導権はとらずにこたえられます。かわりに描くのではなく、となりでいっしょに描こうと誘ったり、「ねこの耳って、どんな形だと思う?」と問いかえしたり。大人の絵はゆるく不完全に。大人がゆがんだ楽しい形を描くのを見た子は、絵はきれいでなくても価値があると学びます。
できばえより、楽しさを守る
いちばんのねらいは、お絵かきを自由なものに保つことです。どんな線も歓迎されると感じると、子どもはもっと試し、思いきった表現をし、自分から紙に向かいます。絵が評価されていると感じると、驚くほど小さいうちから慎重になり、自分にきびしくなる子もいます。「なあに?」から離れ、選んだことに本心から興味を向けることで、「わたしは絵を描く人」と思える自信が守られます。
完ぺき主義で不安になりやすい子には
「ちゃんと」できることにとくに敏感で、消したり、丸めたり、描くこと自体を拒んだりする子もいます。自分の作品のことでよくつらそうになるなら、プレッシャーを思いきり下げましょう。いっしょに描く、なぐり描きを大いに喜ぶ、きょうだいや友だちと比べない。強いくやしさがずっと続く、全体的に自分にとてもきびしく見える、という場合は、地域の保健師さん、かかりつけの小児科医、園の担任の先生に話してみると、全体像と安心をもらえます。
小さなことば、大きなちがい
いつも完ぺきにはいきません。ときには「なあに?」が口から出てしまうでしょう。それでまったくかまいません。子どもが何百もの小さな瞬間から感じとるのは、大人の興味とぬくもりです。見たままを伝え、がんばりに気づき、おはなしを誘い、静けさを楽しむ。それでお絵かきは、子どもが「できる」「自由だ」と感じられる場所でありつづけます。
ポイント: 「なあに?」と聞くかわりに、見えたことを伝え、がんばりに気づく。それで子どもは誇らしく、よく話し、もっと描きたくなります。