幼児への指示は一度にいくつまで?年齢別の目安
「コップを流しに置いて、手を洗って、テーブルに来てね」。ふり向くと、子どもはまだコップを持ったまま、ぼんやりしています。よくある場面ですが、たいていは指示が長すぎただけです。一度にいくつ伝えればいいかは、やる気の問題というより、頭のなかで覚えておける量の問題です。
幼児の「頭のメモ帳」は小さい
ワーキングメモリーは、使っているあいだ情報をとどめておく、頭のなかのメモ帳のようなものです。小さな子のメモ帳は小さくて、すぐに消えてしまいます。いくつもの手順を並べると、最初のほうは、そこにたどりつく前にメモ帳からこぼれ落ちます。大人がいう「忘れっぽい」とは違い、育ちざかりの脳にとってはごくふつうの限界です。
ことばを理解する負担も重なります。子どもは、聞きながら大人のことばを意味に置きかえている最中です。長い文は「理解する」と「覚える」を同時に求めます。その結果、最後に聞いたことだけをしたり、全部が多すぎて固まったりするのです。
年齢ごとのおおまかな目安
個人差はありますが、おおまかな傾向を知っておくと、ちょうどいい頼みかたがしやすくなります。
- 1歳から2歳ごろ(12か月から24か月)は、かんたんな指示をひとつ。できれば身ぶりをそえて。手を出しながら「ボールちょうだい」。
- 2歳から3歳ごろは、はっきりした指示ひとつがまだいちばん確実です。この時期の終わりには、つながったふたつの手順をこなせる子も出てきます。
- 3歳から4歳ごろは、多くの子がふたつの手順の指示にこたえられます。「靴を持って、ここに持ってきて」のように、自然につながっているとなおさらです。
- 4歳から5歳ごろ以降は、ふたつか三つの手順がだんだん確実になります。ただし、疲れていたり興奮していたりすると、また少なくなります。
これはテストではなく、出発点として使ってください。ある日はふたつできて、次の日はひとつだけ、ということがあっても、まったくふつうのことです。
「ひとつずつ」がうまくいく理由
迷ったら、ひとつずつ伝えるのがいちばん安全です。ひとつの具体的なお願いは、覚えやすく、動きやすく、できたらほめやすい。そこで次の手順を伝えれば、だれも無理をせずに、なめらかな流れがつくれます。
手順をひとつずつに分けると、失敗した気持ちも減ります。三つ頼まれてひとつしかできなかった子は「できなかった」と感じます。ひとつ頼まれてできて、また次を頼まれる子は、ずっと「できる自分」でいられます。
覚えておきやすくする伝えかた
ちょっとした習慣で、無理をさせずにこなせる量を広げられます。
- 話しはじめる前に、まずこちらに注意を向けてもらう。最初の一言が気の散ったなかに消えないように。
- ことばは具体的に。「お片づけして」より「靴下をかごに入れてね」。
- できるときは、指さしや身ぶりもそえる。小さな子ほど効果があります。
- ひとつ終わってから次を伝える。ひと息に並べない。
- 少し大きな子には、やることを言いかえしてもらう。声に出すと記憶に残りやすくなります。
自然につながるふたつの手順
ふたつの手順にこたえられるようになったら、つながりのあるものを選びましょう。「絵本を持ってきて、ソファに座ってね」は、関係のないふたつの用事より、ずっとこなしやすいものです。ひとつ目からふたつ目へ自然に流れるので、同じ注意の糸に乗せて覚えておけます。
伝える順番は、動く順番と同じにします。「手を洗ってから、ごはんを食べに来てね」は、子どもが実際に動く流れと同じなので、行ったり来たりする指示よりわかりやすいのです。
少しずつ伸びていく力
長い手順についていく力は、練習で育つもので、無理に引きだすものではありません。毎日の習慣は最高の練習の場です。着がえ、食事の準備、お片づけの歌。小さな手順のつながりを何度もくり返すうちに流れが身について、記憶への負担が軽くなります。
かんたんな遊びも役に立ちます。「船長さんの命令」、いっしょにする料理、見本の絵を見ながらつくるブロック。どれも手順を覚えて順番にやる遊びで、プレッシャーなく楽しめます。ワーキングメモリーが強くなるにつれ、こなせる手順の数は静かに増えていきます。
少し気にかけたいとき
いくつもの指示がむずかしいのは、ほとんどがふつうのことで、年齢とともによくなります。ただ、上の目安の年齢をかなりすぎても、かんたんな指示ひとつにいつもこたえられない、同じ年の子が知っている身近なことばがわからないようだ、話すことが遅れている、音にまったく反応しないことがよくある、といった場合は、かかりつけの小児科医や地域の保健師さんに相談してみましょう。まれに聞こえやことばのむずかしさが隠れていて、早めの支援が役立つことがあります。「何か違う」と感じたら、その感覚を信じて聞いてみてください。
とはいえ、ふだんの暮らしでの答えは、びっくりするほどシンプルです。まずはひとつ、はっきりと。できた経験を積みかさね、お子さまが「もう大丈夫」と見せてくれたら、少しずつ手順を増やしていきましょう。
ポイント: 小さな子には、はっきりした指示をひとつずつが基本です。ワーキングメモリーの育ちに合わせて、つながったふたつの手順へと少しずつ増やしていきましょう。