毎日の習慣に、手づくりの歌を
家族の暮らしでいちばん役に立つ歌のなかには、だれも聞いたことのない歌があります。おむつがえを乗りきるため、小さな足を玄関へ向かわせるため、その場でつくった歌です。だれもが知っているメロディーも、だれもがほめる声もいりません。毎日の習慣のための歌をつくれるようになると、一日のいちばんむずかしいところに使える、やさしくて明るい道具が手に入ります。子どもは小言よりずっとよくこたえてくれます。
手づくりの歌がうまくいく理由
歌はいくつものことをいっぺんにしてくれます。何が来るかを知らせるので、なじみの手洗いの歌が、けんかなしに手を洗う時間だと伝えます。着がえの手順を歌いながら並べるように、情報をやさしい包みで運びます。そして気分を変え、こじれそうな瞬間をやわらげます。子どもはもともと大人の声に耳をかたむけるようにできていて、歌うような話し方は、平らな指示ではなかなかできない形で注意を引きつけます。
あなたにも、本当にできます
歌をつくると聞いてはずかしくなっても、肩の力をぬいて。子どもは、いちばん採点のあまい観客です。音がはずれても気にしません。いちばんかんたんなのは、「きらきら星」や「かえるのうた」のような知っているメロディーを借りて、していることについての自分のことばに入れかえる替え歌です。このひとつのコツでむずかしさはすべて消え、ことばと楽しさに集中できます。
試してみたい、かんたんなレシピ
- 借りて入れかえる。なじみのメロディーはそのままで、ことばを用事に合わせて変える。
- 歌うように実況する。「つぎは ひだりの くつした、つぎは みぎ」としていることを口ずさむ。
- 子どもの名前を入れる。自分の名前が聞こえると、歌がよく届きます。
- カウントダウンにする。時間が減るにつれて短くなる「あと5分」の歌。
- 覚えやすい一節をくり返す。「くつはいて、おでかけだ」のような短いくり返しは、すぐに定着します。
こじれやすい場面の歌
歌を待っているような習慣があります。いつももめる用事に、ひとつずつ歌を。
- 着がえ。着るものをひとつずつ名前で呼びながら。
- 手洗い。しっかり洗うのに必要な時間だけ続く長さで。
- お片づけ。ペースをきざむくり返しの一節で。
- おでかけ。明るく「うわぎ、くつ、さあおでかけ」。
- ねんね。ゆっくり、やさしく、一日が終わっていく合図に。
こうした習慣に歌をつくると、切りかえが起きていることを、予想できる心地よい合図で子どもに伝えられ、不意打ちと抵抗が減ります。
子どもも加わり、形づくる
歌は子どものものにもなると、もっとうまくいきます。次のことばを提案してもらう、どの習慣の歌を歌うか選んでもらう、自分でおもしろい歌詞をつくってもらう。子どもが今にぎっているおもちゃの名前を並べるお片づけの歌は、子どもを仕事に引きこみます。歌づくりを手伝った子は自分のものだと感じ、その小さな「自分で決めた」感覚が、指示が引きおこすしぶしぶをとかすことがよくあります。
期待はやさしく
歌は助っ人で、魔法の呪文ではないので、むずかしい場面をすべておさめてくれるわけではありません。疲れている、おなかがすいている、ただどうしてもいやな日は、どんな歌でもなおらず、それでいいのです。歌はたくさんある親しみやすい道具のひとつとして使い、届いていないときはやめて、「歌が効かない」を新しいストレスのもとにしないこと。歌の力が発揮されるのは、大泣きの場面ではなく、ふつうの日々です。
子どもといっしょに育つ
赤ちゃんにとって手づくりの歌は、ほとんどが大人のなだめる声と、お世話のリズムのことなので、自由にハミングし、実況しましょう。小さな子は習慣の歌に気づきはじめ、ことばをうめるかもしれません。幼児期の後半なら、歌をリードし、新しい歌詞をつくり、歌を使って自分の遊びを組みたてることもできます。今つくる習慣が、子どもに合わせて変わりつづける、ふたりだけのことばになります。
元気に過ごすための、ひと言
一日を歌いながら過ごすことは、つながりとことばにすてきなものですが、義務ではなくおまけだと覚えておきましょう。長いあいだ大人の声や歌にまったく反応しないように見える、そろそろと思う年齢になってもことばや身ぶりを使わない、できていたことができなくなった、という場合は、地域の保健師さんやかかりつけの小児科医に伝えましょう。そうでなければ、明るい歌が日々のリズムにくれる効果を、ただ楽しんでください。
覚えておきたいこと
習慣をやさしくするのに必要な物は、もう全部持っています。自分の声、なじみのメロディー、ちょっとおばかに聞こえてもいいという気持ち。メロディーを借りて、目の前の用事のことばに入れかえ、子どもを誘い、いつももめる瞬間を歌に運んでもらいましょう。だれも歌を採点していません。返ってくるのは、おだやかで、あたたかい一日です。
ポイント: なじみのメロディーを借りて、用事のことばに入れかえ、子どもにも歌詞を足してもらう。むずかしい習慣が、いっしょの歌になります。