「ありがとう」を無理に言わせずに、感謝の気持ちを育てる
「なんて言うの?」。プレゼントをにぎりしめた子に、小声でせかしたことは、きっと誰にでもあるでしょう。そして子どもはたいてい、しぶしぶ「ありがとう」とつぶやきます。見ていた親戚は満足しても、本当の感謝については、ほとんど何も教えていません。幼い子に長く残る感謝を育てたいなら、目指すのはよく練習したひと言ではなく、心からの、育っていくありがたさの感覚です。そしてそれは、無理にさせることはできません。
礼儀と感謝は同じではない
ふだんひとまとめにしがちな二つのことを、分けて考えてみましょう。礼儀は、「おねがいします」「ありがとう」「どういたしまして」のように、やりとりをなめらかにする決まった言いかたです。感謝は、持っているものや、人がしてくれることを、ありがたいと思う心の中の気持ちです。礼儀は習慣でわりと早く教えられます。感謝は内側からゆっくり育ち、どれだけ「ありがとう」をうながしても、その下に気持ちがあるとは限りません。
どちらも持っていてほしいものです。でも、ことばを練習させることだけに目を向けると、正しいことを言いながら、とくに何も感じていない子になってしまうかもしれません。より豊かな目標は、気持ちを育てて、ことばはそこから自然についてくるようにすることです。
心からの感謝を、親が見せる
子どもは、おもに感謝する大人とともに暮らすことで、感謝を学びます。親が何かをありがたく思うのを、声に出して、本気で聞かせましょう。「散歩のときにお日さまが出てくれて、うれしいな」「荷物を運ぶのを手伝ってくれてありがとう。すごく助かったよ」「今夜はおじいちゃんがごはんを作ってくれて、ほんとうにありがたかったね」。
これは決まり文句の「ありがとう」ではなく、具体的で、心からのものだということに注目してください。暮らしのなかのよいことやよい人に、親が気づいて大切にするのをいつも聞いていれば、子どもはその世界の見かたを吸収します。この毎日のお手本が、幼い子に感謝を育てる、いちばん力強い方法です。
毎日の小さな習慣を
感謝は、ふつうの日々に織りこまれた、やさしい、くり返しの練習で育ちます。
- 夕ごはんか寝る前に、一人ずつ、その日のいいことを一つ話す。気軽に、親もふくめて順番に。
- うれしいことがあったら、いっしょに立ち止まって気づく。「お友だち、分けてくれてやさしかったね」。
- 受けとるだけでなく、あげることにも子どもを加える。誰かへの小さなプレゼントを選ぶ、近所の人を手伝う。
こうした習慣は、義務ではなく、あたたかく、心からのものに感じられるときにいちばんうまくいきます。「いいこと発表」がお芝居のようになってきたら、少しゆるめましょう。目指すのは、子どもの目を、何度も何度も、よいことのほうへやさしく向けることです。
無理な「ありがとう」はやめる
その場で、とくに人前で「ありがとう」を求めると、本物の感謝より、はずかしさや反発が生まれがちです。感謝を、プレッシャーや恥ずかしさと結びつけてしまうことさえあります。代わりに、親がお礼を言ってみせましょう。誰かが子どもにプレゼントをくれたら、「ほんとうにありがとうございます。うれしいね」とあたたかく。子どもは本物の場面でその言いかたを聞き、時間とともに自分でも使うようになります。
うながしたいなら、やさしく、二人のときに、そして完璧でなくても受け入れましょう。小さな声で「おばちゃんに、ありがとうって言おうか」なら、命令ではなく誘いです。そして子どもが言われずにお礼を言えたら、あたたかく気づいて伝えましょう。それがまた次につながります。
受けとるだけでなく、ありがたく思えるように
今の子ども時代は物にあふれがちで、おもちゃやごほうびがあふれると、ありがたさがにぶることがあります。子どもに何かをがまんさせる必要はありませんが、少し少ないほうが、感じる感謝はずっと大きくなることがあります。よいことのまわりに余白があると、あたりまえにならず、味わうものになります。
受けとるものの裏にある手間に、子どもが気づく手助けをしましょう。「このいちご、誰かが育てて、つんでくれたから、食べられるんだよ」「おうちの人が一生けんめい働いて、買ってくれたんだね」。毎日のものの裏にいる人や手間が見えることが、本当の感謝の根っこです。
役に立つ経験を
子どもが受けとるだけでなく、あげる側にもなると、感謝は深まります。家のお手伝いをし、誰かのお世話をし、小さなやさしさや分かち合いに加わらせてあげましょう。食卓の準備を手伝った子は、ごはんを違うふうにありがたく思います。おもちゃを選んで寄付する子は、自分はたくさん持っているのだと、わかりはじめます。こうした経験は、どんなお説教より、ずっと力強くありがたさを教えてくれます。
年齢に合った期待を
小さな子は、自然に自分のほしいものに目が向いていて、それは恩知らずではなく、ふつうの発達です。お礼を言わずにつかみとる幼い子は、甘やかされているのではなく、ただ小さいだけです。本物の感謝は幼児期からその先にかけて少しずつ育ち、そのあとも行ったり来たりします。1回の場面より、根気と変わらないお手本が大切です。ここで書きそえるべき心配はありません。ただ、これはゆっくりとした人間らしい歩みで、子どもはちょうどいいタイミングで進んでいる、という安心だけです。
本当のごほうび
何も感じずに、合図で「ありがとう」をくり返す子を目指しているのではありません。暮らしのなかのよいことや人のやさしさに、心から気づき、ありがたく思える人を育てているのです。それは、長く続く幸せのいちばんじょうぶな土台の一つです。親自身のお手本、毎日のやさしい習慣、あげる本物の経験で感謝を育てれば、礼儀のことばはやがてやってきます。そして今度は、そのことばに意味がこもっているのです。
ポイント: ことばだけでなく、気持ちを育てましょう。心からのありがたさを見せ、毎日の小さな感謝の習慣をつくり、受けとるだけでなくあげる経験をさせれば、本物の感謝が内側から育ちます。
American Academy of Pediatrics, HealthyChildren.org: Emotional Wellness